神さまのブログ【完結】

ライトなラノベにエントリーしてみた新城館です。 なんとか完走。星空が文字列に見えちゃう人の話です。

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「はじめっ」

担任の掛け声とともに、僕の机のモニターに問題が表示される。

見覚えのない数式が並んでいる。
もはや適当な答えすら記述しかねるレベルだ。

ラクガキでもして時間を潰したいところだが、
テスト問題には解答欄以外に筆跡を残すことはできない。

なんと残酷なシステムだろう。

ただ、提出さえしてしまえば、終了時間までは自習と称した自由時間だ。
世の中諦めが肝心だというではないか。
もう諦めて、提出ボタンを押す。

送信完了。

さて、と一呼吸おいたところで再度表示されるテスト問題と提出拒否の文字。

恐る恐る担任の方へ顔を上げると、まっすぐにこちらを見つめている。
表情こそいつも通りの無表情だが、眼には明らかな怒気が見て取れる。
逃げ道はない。
 
諦めて、再度問題を見つめる。

横目に窓から外を見ると、明らかな曇天だ。
天気予報によれば、今日は全国的に天気が崩れるということだ。

まだ雨こそ降っていないが、時間の問題だろう。
などと考えている間に、教室に音が聞こえるほどの大雨が降り始めた。

その音に反応するように、クラスの3割程度が一斉に窓の方を見遣る。

「余所見をするなー」




一日の授業をなんとなくやり過ごしての放課後。
相変わらず大雨は続いている。

今日は、星空は拝めないだろう。
正確には、スイーツブログだが。

星空自体は随分長い間拝めていない。

まあ、今日はあのスイーツに振り回されることはない。
寝るまでの時間を有意義に使わせてもらうとする。

帰りに本屋にでもよって帰ろう。
今日は色々と漫画の新刊が出るはずだ。




夕食を済ませ、やや早めの風呂を済ます。
いそいそと自室へ戻り、今日買った新刊を楽しむのだ。

もくもくと読み進めるも、
楽しみにしていた話の続きのはずだが、どうも頭に入ってこない。

どうも集中できていない気がする。

なぜだ。
頭に浮かぶのは、あの事。

スイーツブログには、今日はどんな内容が書かれているのだろう。
どうせなんにも中身の無い、どうでもいいことが書いてあるに違いない。

でももしかしたら、
今日に限ってなにかすごいことが書いてあったりするのではないか?

もしかしたら、
この怪現象のヒントが書かれたりするのではないか?


なぜ僕の眼にだけ映るのか、それにまつわることだって書いてあるかもしれないじゃないか。
直接的でないにしろ、間接的な、原因のきっかけが見つかるかも。
そんな記事を見逃しているのではないか。

気になりだすと、止まらない。

明日の天気は晴れなのか?
おもむろに天気予報を検索する。

相変わらずずらりと並ぶ雨のマーク。
なんだか焦りに似た感覚が、僕を襲う。

関東圏内から引いた、全国の予報を表示する。

東京より北部、仙台周辺には雨マークは無い。
曇時々晴れ。
夜には雲が晴れるとある。

一番近い仙台周辺の県は、福島か。
新幹線を使うレベルの距離だ。
片道の料金は……8000円といったところだろうか。

二時間程度の道のりだ。
放課後からでも急げば、行って帰ってこれる距離だ。

そこまで考えてハッとする。

なに考えてるんだ。
あんなものを見るために往復で4時間の二万円の日帰り旅行って。
どうかしてる。

こんな時はさっさと寝てしまうに限る。
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夕食を済ませ、特にすることもない土曜日の夜。

こんな時こそ、授業の復習と予習を済ますべきなのだろうが、そんな気はさらさらない。

積ん読状態のSF小説でも消化しようと、積み上げられた文庫に手を伸ばす。

取り上げた拍子に積み上げられた文庫本が雪崩を起こし、
それに乗って星座早見表が滑り出してくる。

懐かしい。
幼稚園児の頃だろうか、よく父親と星座を見に行った気がする。

たとえまだ星座が見えたとしても、
今の僕の眼には、脳天気なブログに見えてしまうのだろうが。

もはや慣れては来たが、納得はいっていない。
これからどうなるのだろう。


徐に窓を眺める。
今日はどんな内容が夜の空に広がっているのだろうか。


窓開けてみるだけなら、大した手間ではない。
どうせ暇だし。

カーテンと窓を開け放し、残暑の夜風が部屋に流れ込む。


『もしユメ』


ん?暗号? ではない。

うちの家は、一軒家であり、高さがない。
そのため他の建物に阻まれ、見える星空は限られているのだ。
よって我が家からは夜空のスイーツ(笑)ブログの全貌を把握することはできない。

いや、さすがにね。
しょーもないと分かってるものを見るためにね。
貴重な土曜日の夜を浪費してもね。

いや、まあすることなくて既に浪費してるんだけど。


『もしユメ』?
なにそれ。
もし?if?
ユメ?dream?

いやいや、気になってないし。
本でも読むし。




運動不足の僕にはやや辛い坂道を地道に登る。
今日はやや湿度が高く、歩けば歩くほど蒸してくる。

謎の好奇心に負けた自分が憎い。

たまに吹く風の心地よさだけを頼りに坂道を進んでゆく。


小さな達成感を感じると同時に、山の上公園の展望が開ける。


『もしユメが叶うなら、愛しのあの人にチョコクロあーんってしてあげたぃょ(●´ω`●)
誰が叶えるんだっつーの(ノ`Д´)ノ はぁ……』
「相変わらずどーでもいいな……」

てか自分でツッコむなよ。
そして俺の貴重な土曜日の夜を返せ。

割りと予想通りの内容なのが、余計辛いし。
かといってどんな内容を期待していたんだろう。

やり場のない気持ちをヤキモキしながら、蒸し暑い家路についた。 

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相変わらず暑い日が続いている。

湿度は大分下がり、カラッとした暑さなのが唯一の救いだ。

今日は月に一度の検診の日だ。

「久し振りだね。どうだい調子は?」

僕の担当医は、相変わらずの愛想の良さで微笑んでいる。

「まあ、特に変わりは無いです」

僕は曖昧に返事を返すと、促されるままベッドに仰向けに横たわる。
医者は慣れた手つきで、僕の肩から腕にかけてなにやら動きを確かめながら、雑談を続ける。
なんだか手持ち無沙汰で腕をグニグニされてるだけなんじゃないかという気がしてくる。

「まあ、腕と肩に関しては、もう完治したようなもんだね。違和感はまだある?」

「若干。腕を高く上げたときくらいです」

「それくらいなら大丈夫だね。先生なんて四十肩で、腕なんか上がらないし」

医者と比較されても大丈夫な理由にはならないとは思いつつも、
僕はなんとない愛想笑いを浮かべる。

「まあ、それよりも眼だよね。インプラントの調子はどう?」

そう言いながら、アイマスクのような機械で目元を覆われ、僕の視界が暗闇に包まれる。

「うん。矯正値は下がってきてるから、だんだん回復はしてきてるね。
 とりあえず順調って感じかな」

僕の視界を覆っていた機械が外され、蛍光灯の急な光に目を細める。

「いつ頃治るんですか?」


僕は半年前に聞いた質問を久し振りに投げかけた。


「うーん、あと二年は掛かかるかな」


「相変わらず時間掛かるんですね」

「これでも早い方だよ。
 むしろインプラントデバイス使っても、見えてる事が奇跡みたいなものだよ。
 事故直後のキミの眼はほとんど原型をとどめていなかったんだから」
 
奇跡。
あの事故から生還して以来、よく言われる言葉だ。
視力どころか、生きていることさえ奇跡的だとあの頃は言われた。
それは理解しているつもりなのだが、
如何せん今視力という点で不自由が無いことが、しているつもりの理解を邪魔する。
そこに二年以上の治療の話をされてもピンと来ない。
 
「当時のキミの眼はほとんどの機能をインプラントで肩代わりしていたんだ。
 眼をリハビリするように少しずつその補助を外していき、
 今では視神経の機能と結晶体の調整以外は、キミの眼自身の力で機能してるんだ。
 これは大きな違いだよ」
 
そう考えると、確実に治ってはいる。
だがしかし、だがしかしだ。
インプラント手術をしてから、僕の星空は侵食されだしたのだ。 
あと二年、もしくはそれ以上の間、
僕は毎晩あのスイーツブログと付き合って行かなければならないのだろうか。
正直それはキツイ。
 
「なんだか、浮かない顔だね。まさかまだアレが見えるとか?」

「……はい。まだ文字に見えますね」

「うーん、機械には不具合は無いはずなんだけどな…。他の使ってる人から同様の報告も無いし」

「まあ、ですよね」
 
とりあえずひと通りの検診を終え、帰り支度を始める。
帰り際に医者からは、なにか心当たりがあれば、相談してくれと言われたが、
どこの世界に夜空がスイーツブログに見える心あたりがあるというのだろうか。

病院を出る頃には、日も落ちかけていた。
 
暮れ泥む光と影のバランスが妙にドラマチックな町並みを眺め、
こんな景色が見れなくなるかもしれなかったと思うと、現代医療に感謝せざるを得ない。

せっかく街まで出てきたのだ。
チョコクロワッサンで小腹を満たして帰ろう。 

さて、今夜もブログは更新されるのだろうか。

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